導入|情報は載っている。でも、顧客は判断できない
私がアパレルメーカーに勤めていたころ、腰が曲がった高齢者の体型に合わせて、立体的に縫製されたパンツの商品ページを更新したことがある。
商品ページには、分かりやすい商品名があり、どんな機能があるのかも説明していた。着用画像もあって、モデルは杖を持ち、やや前かがみの姿勢をとっていた。情報がなかったわけではない。
けれど、正直そこまで売れていなかった。
ECショップでの動きは鈍く、知る人ぞ知る、といった具合の商品だった。
何が伝わっていないんだろう。
ページを見直していて気になったのが、着用画像だった。
杖もある。前かがみの姿勢もある。
それでも、着ているのは若いモデルだった。
商品名にも説明にも「誰のための商品か」は書いてある。画像でも高齢者向けであることは表現しようとしていた。でも、実際に腰が曲がった高齢者が履いたときの体型や姿勢までは、どうしても想像しにくい。
そこで、腰が曲がった高齢女性の体型が分かるイラストを商品画像に加えた。
最初に見せ方を変えた楽天では、その後、商品が動き始めた。高齢の母親のために購入した人から、着用時のずれにくさや快適さについて、好意的なレビューも増えていった。
その反応を見て、Amazonにも同じ考え方を展開した。こちらでは説明を強化した。それが販売につながった厳密な因果関係までは確認できていないけれど、その後Amazonでは、その商品が定番品として動くようになった。
1|なぜ「詳しく書けば伝わる」とは限らないのか
ここで面白いのは、もともと情報がなかったわけではないことだと思う。
商品名もあったし、機能説明もあった。着用画像もある。けれど、商品はそこまで動いていない。
広告運用をよく勧められるから、私も最初は「露出が足りないのか」と思った。まずはオーガニック検索で、と商品名を変えたり、キーワードを見直したり、思いつく限りいろいろやってみた。
実際、キーワードを変えればアクセスは増えたし、商品名を変えれば閲覧数も増えた。
でも、離脱率や直帰率が上がるばかりで、成約にはつながっていかない。
どこで離脱しているのかが、すごく気になった。
ただ、楽天の商品ページでは、ヒートマップを自由に入れて確認することはできない。
では、何が引っかかっているのか。
結局、最後に頼りになったのは、他でもないお客様の声だった。
レビューを見ていくと、情報はあるのに、購入判断に必要な情報が足りていないことが見えてきた。
つまり、それまで私がやっていたのは、商品を「見つけてもらう」ための対策ばかりだった。
見つけてもらったあと、その人が「これは自分に合う」と判断できるかどうかは、また別の話だった。
2|情報は、あるだけでは判断材料にならない
事業者側からすれば、必要なことは書いている。
けれど、購入する側からすると、自分の場合に置き換えたときにどうなるのかが分からないことがある。
先ほどのパンツもそうだった。
商品の特徴は説明していたし、着用画像もあった。それでも、実際にその商品を必要としている人の姿と、ページに載っている情報が十分につながっていなかった。
だから、単純に説明を増やせばいいわけではない。
情報があることと、その情報で判断できることは、同じではない。
私が見るようになったのは、そこだった。
3|同じ言葉でも、原因は一つとは限らない
レビューに「ずれる」と書かれていたとしても、その一言だけでは原因は分からない。
実は、高齢者向けの商品では、購入する人と実際に着る人が違うことも多い。家族が選んでいる場合、本人の身体の状態や、普段どんな服を着ているのかまで正確に分かっているとは限らない。
「ずれる」は、あくまでも一つの結果だ。
だから私は、「ずれる」という一つの言葉を見て、一つの原因に決めないようにした。
同時に、分からないものまで、分かったことにしないようにもしていた。
人によって感じ方が違うものもあれば、使う条件によって結果が変わるものもある。
確認できることは具体的にする。けれど、確認できないことまで言い切らない。
それも、情報を扱ううえでは必要なことだと思っている。
4|情報設計は、顧客が判断できる状態をつくること
今の新しやでは、情報設計を、情報を増やすことではなく、顧客が自分で判断できる状態をつくることだと考えている。
会社員時代、私は販売施策、顧客対応、レビュー対応、商品改善、情報改善を、あまり別々の仕事として考えていなかった。
目の前に見えている結果には、いくつもの原因が絡んでいることがある。その原因の奥に、さらに別の原因があることもある。
だから、商品の説明だけを見ても足りない。
商品そのものと、顧客がどう受け取り、どう判断しているのか。その両方を切り離さず、因果でつないで考える必要がある。
それが、今の新しやの情報設計の土台になっている。